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Archive for 6月 2017

野山を歩く一人の少女はただ夢中で、遥か雲の上の頂を目指していました。そこには、この世の全てのしがらみから心を解き放ってくれる広大な世界が待っている、という噂を耳にしたからです。針葉樹の森を抜けて稜線に近づくと、目の前には地平を見渡す大絶景が広がっていました。森林限界を越えたのです。

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本来なら、そこには高山でしか咲かない花の、お花畑が広がっているはずでした。ところがそこは、何故か毒花ばかり。「まるでポイズンガーデンね」少女は心の中で呟きました。そこに、一匹の雄鹿が現れました。少女を怖がる様子はありません。お腹を空かせた鹿は、まだ芽吹いたばかりの草花を夢中で食べています。毒花には見向きもせず。鹿は、どれが食べられる草花か、どれが毒草か、知っているのです。

毒花だらけのお花畑。でもそれは、草花にとっても生きる術。無惨にも鹿に食べられる草花は、もはや絶滅の一歩手前。少女が辺りを見回すと、山のなだらかな稜線は、食べられない毒草と、増えすぎた鹿だらけになっていました。

少女はそんな光景に心を痛めながら、頂を目指しました。息を切らせて急坂を登り切ると、そこは見たこともない天空の景色。頂上の大絶景が広がっていました。自分自身のあまりの小ささ、地球の大きさ、空の高さ、目の前の全てが神の領域のように広がって、少女の心を風のようにさらっていきました。

少女は心をすっかり空っぽにし、こう呟きました。「無駄な命なんてないけれど、私は何かとても恐ろしい生き物じゃないのかしら」野山の光景を見るにつけ、少女は自分の心の中に抱える毒に気がつきました。鹿を野山に追い詰め、食べるものも食べ尽くし、気がついたら一面の毒花だらけ。そんな光景が、自分の存在と重なって見えたのです。
社会のしがらみ。生きるために競いあい、いつしか独り取り残された少女の心に宿したのは、誰も触れようとしないまさに、毒だったのです。その事に少女は、初めて気がつきました。

少女は、ただ泣きました。涙が枯れ果てるまで泣きました。

少女も人間ですから、いつまでもここいるわけにはいきません。家族の待つ家へ帰ります。毒花の園を抜け、針葉樹の森に差し掛かったところで、一輪の花を見つけました。それは普段よく目にする薔薇の花でした。

人の手で育てられた薔薇しか見たことがなかった少女は、その一輪の野薔薇に心を奪われました。特別な色でも香りでもない、けれどその姿は、厳しい自然の中で独りたくましく生きる力にあふれていて、少女の心を満たしていくのでした。

毒に満たされた少女の心にもいつしか、たくましく育つ一輪の薔薇の花が、咲く日がくるのかもしれません。

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 岐神葵のぼうけんのしょ。

 岐神葵のブログらしいです。
「事実は小説より希なり」
 架空の人物の閉じた世界のありえない話なんかより、何百倍も面白いリアル体験。そんな人生を目標に、意味不明な挑戦と挫折を繰り返しています。

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涼規じゅん

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  • RT @hanatsumi: 早くも続編のリリースが待ち遠しすぎるゆるゆる劇場。実は大昔別名義で同人誌まで出してたりして。結構な数余ってるので新たにハマった人に配って歩きたいところだけど、この本劇場版ネタだから劇場版がリリースされないと配れないな。あー劇場版がリリースされないと… 3 days ago

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