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Archive for 4月 16th, 2012

秩父の盟主、武甲山。

古くからの山岳信仰の対象で、頂上には御嶽神社があります。蔵王権現を祀った御嶽神社は奥多摩の御岳山と同様、古くから信仰の対象でした。

一方で、武甲山は秩父セメントの最大の採掘場でもあります。特に昭和の高度成長の時代に、多くのセメントがここから全国的に使われました。その量は想像を絶するほど大量ですが、今の山の形を見れば、その膨大さが窺えます。

山に登ると、いつも感じることがあります。登山をして自然に触れるといいながら、その行為そのものが自然へのダメージになっていないか。土足で山に踏み入ることは結局、山を保護するどころか自然を失うことに繋がらないか。

アメリカの自然公園は、通常は一般人の立ち入りが厳しく制限されています。狼を絶滅させてしまった歴史への、反省の意図が反映されているのかも知れません。たとえ山火事が発生しても、消火活動はしません。山火事もまた、自然の現象に過ぎないからです。

日本の自然公園は、立ち入りを制限するものではなく、むしろ積極的に人間の手で守っていこうという方向性でしょうか。古来から日本人の自然観は、自然と一体になるような信仰があり、その恵みを利用し生活に欠かせない存在でもありました。ですから、そもそも立ち入り禁止にして隔離することは、自然観にそぐわないのでしょう。狭い日本で、その恩恵を抜きにできないという事情もあります。

日本人の長い歴史は、自然との難しい折り合いをどうつけるのか、それそのものでもあるように思います。捕りすぎを防ぐために、狩を禁止する神域を設けたり、子連れの親子を狩らないこと、若い芽を必ず残すこと、渓流魚の禁漁期間などもその最たる例です。自然に歩み寄りながら、その恵みを最大限に利用するために、それを根絶やしにせず守ることを怠らなかった。だからそれらが今に伝えられているんですね。

しかし、明治の近代化の流れや、昭和の高度成長の時代は、そうは行かなくなった現実があります。特にニホンオオカミの絶滅は典型的です。狼は、こちらから手出しをしなければ、人間を襲うことはありません。古くは山の神として崇められ、大切にされてきました。それが秩父にある、三峰神社の御神体として今も守られています。

この武甲山の姿は、そんな難しい自然との折り合いを象徴するような姿。町を作るということは、山を削っていくことでもあります。普段は意識しなくとも、どこかで必ず傷つく自然がある。昔は、木材だけを大切に使い、町を築きました。今は最早、自然の犠牲なくしては電柱1本立たないのかも知れません。わずか100年前は、ここまで酷くなかったようにも思うのですが。

こんな武甲山にも信仰の歴史があり、むしろそれが、山の姿を保つに至る「自然公園」になっています。ギリギリまで削られた採掘場のすぐ裏に、御神域が広がっています。裏と表、まるで日本人の心の中を透かしてみたような。ジレンマというか。

狭い国土ですから、立ち入りを制限できる自然公園を作ることは難しいでしょう。またそんな自然の恩恵を古くから利用してきましたから、そうした自然保護の形もナンセンスです。しかし急激な発展は、やはりそれ相応のしっぺ返しを伴うものだったのですね。それを止める手立ては、例えば足尾銅山の話や白神山地の話などありますけど、数は少ないです。

今回の登山で気付いたことは沢山ありますが、ふと思ったことだけ書いておきます。

消防法。かつては木造の高層建築を3階までとしていました。つまり、五重塔や天守閣を作ろうとしたら、全て鉄筋コンクリートになってしまうのです。2000年に法改正され、現在は建築できます。その頃に再建された天守閣や五重塔など、みんな「ビル」な訳です。大阪城や名古屋城など、訪れて愕然とした方も多いでしょうね。そしてそのセメントは、この秩父セメントが使われているかも知れません。武甲山の一部で作られたかも知れないということです。

木造なら、植林したり間伐したりの手間はあっても、失われることはありません。日本の古くからの建築は、決して資源を無駄にしていませんでした。しかも植物は、二酸化炭素を吸収し、川の水を溜め込むかけがえのない存在。木造建築は日本人が培ってきた、最高にして最強の「技術」ではないかと思います。武甲山の神域は、厳粛な雰囲気の杉林ですが、そんな木々こそ日本の誇るべき「資源」じゃないかと、再発見した次第です。


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 岐神葵のぼうけんのしょ。

 岐神葵のブログらしいです。
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 架空の人物の閉じた世界のありえない話なんかより、何百倍も面白いリアル体験。そんな人生を目標に、意味不明な挑戦と挫折を繰り返しています。

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